「思ったほど商品が売れなくて、売上が上がらない…」こんな時、値下げをすれば、たくさん商品が売れて、売上も増えるだろうと考える経営者の方も多いと思います。でも、ちょっと待って下さい!値下げをすることでよい結果が出ることもありますが、かえって経営を悪化させることもあります。

 

 

 

値下げの落とし穴

#1:売上が増えるとは限らない?

値下げをすることで、一時的にお客様は増えるかもしれません。安く買えるようになってお客様も喜び、販売数量も増えてお店もハッピー。一見、いいことばかりのように思えます。では、売上はどうなるでしょうか?簡単なモデルケースで考えてみましょう。

 

(モデルケース)

商品1個あたりの原価:600円

販売単価:1,000円

販売数量:100個

このとき、売上=販売単価×販売数量で求めることができますので、

売上=1,000円×100個=100,000円となります。

 

ここで、もっと売るために、30%値下げを行い、販売単価を700円にしたとしましょう。仮に販売数量が30%増加して130個売れたとしたら、売上はいくらになるでしょうか?先ほどと同じように計算してみましょう。

売上=700円×130個=91,000円となりました。

 

あれ?不思議ですね。販売単価が30%下がって、販売数量が30%増えたのだから、売上は変わらないと思いきや、売上は減ってしまいました。もちろん、販売数量の増加分が30%よりも少なくなれば、さらに売り上げは減ることになります。

#2:売上と利益の関係

今度は利益について考えてみましょう。モデルケースは先ほどと一緒です。値下げ前のケースでは、売上原価=600円×100個=60,000円ですから、

売上総利益は100,000円-60,000円=40,000円となります。

一方、値下げ後のケースでは売上原価=600円×130個=78,000円ですから、

売上総利益は91,000円-78,000円=13,000円と、値下げ前より27,000円も少なくなってしまいます。

 

では、今回のケースでは何個売れた時に値下げ前と利益が同じになるでしょうか?1個当たりの利益が値下げ前は1,000円-600円=400円だったのに対し、値下げ後は700円-600円=100円となっています。つまり、値下げ前と同じ利益を上げるには4倍の400個売らないといけないということになります。売れないから値下げをしたのに、4倍も販売数量を増やすというのはかなり大変そうですね。

#3:値下げ合戦に陥ってしまう

また、商売をしているのは自社だけではありません。自社のお客様が増えるということは、競合他社のお客様が減るということでもあります。

その時、競合他社はどう考えるでしょうか?ずっと手をこまねいて見ているだけのはずはありませんよね。「よし、じゃあうちも値下げをして、奪われたお客さんを取り戻そう!」と考えるかもしれません。これが競合他社との間で繰り返されると、値下げをしたにもかかわらず、販売数量は結局変わらなかったということも起こりえます。

 

#4:価格は質のバロメーター

他にもデメリットはあります。「安かろう悪かろう」という言葉があるように、なんとなく「価格が安いものは品質もそれなりだろう」と考えたりしませんか?

たとえば、ブランドバッグや時計などは値段が安いものから高いものまであります。高級時計が安く売っていたら、はじめのうちは喜んで買うお客様が増えるかもしれませんが、しばらくすると「あの時計も安くなったな。カッコイイ別のブランドの時計にしよう」と敬遠するお客様が増えることにもなりかねません。

この例と同じように、値下げをすることで品質も下がったという、誤った認識をお客さまに与えてしまい、長期的にはブランド価値を下げてしまうことも考えられます。

 

では、どうしたらいいの?

 

ここまで、4つの値下げのデメリットを述べてきました。値下げにはこのように多くのデメリットがあるので、商品の差別化やマーケティング方法を工夫するなど、まずは値下げしなくても売れる方法を考えるべきです。

また、今回のタイトルは「『安易な』値下げはなぜいけないの?」でしたよね。きちんとした理由があれば、値下げも有効な手段の一つになります。

たとえば、賞味期限が近い商品を「見切り品」とか「賞味期限間近!」として売る、あるいは、「1周年記念」などイベントを訴求するのであれば、お客様も「なるほど、だから安いのか」と納得できます。他にも、値下げすることで販売数量が大きく増え、売上、利益とも増えると予測できる時であればよいでしょう。

このように、値下げは慎重に行うべきです。適切な価格設定、売上げや利益への影響を管理するには、事前の計画、販売管理が重要になります。販売管理は「ウランバ!!」で。

 

 

 

執筆者:取材の匠 ライター 筑間 彰

1977年生まれ。中小企業診断士、ICPコンサルティング代表。

2002年より、学習塾を経営。チラシ・DM等の販促、マーケティングプロモーション、講師管理をはじめ、経営マネジメント全般に従事。2015年、ICPコンサルティングを設立。プログラミングスクール、学習塾など、お客様と関係を作り、継続してお客様が来店する業種を得意とする。指導経験を活かした「わかりやすく、身につく」研修、セミナーを行うほか、経営支援、補助金申請支援にも携わる。

上から目線でなく、中小企業経営者として、「経営者の目線に立った」助言が出来るよう心がけている。中小企業診断士試験に関する著書なども多数。