『顧客の求めているものを提供することが最も必要なことだ』

 

このように考えている経営者やビジネスパーソンはとても多いでしょうし、事実多くのヒット商品は顧客が求めているものを提供することで生み出されています。かつてはこの領域は日本企業の得意分野でした。SONYのウォークマン、TOTOのウォシュレット、TOYOTAのプリウス・・・。しかし近年、世界的なヒットを記録する商品は海外勢が多くを占めるようになってきました。iRobotのルンバ、Dysonの掃除機、AppleのiPhone・・・。これはなぜでしょうか?もちろん、日本企業が作る商品が「機能重視になっていて顧客が求めているものになっていない」ということもあるでしょう。しかし、機能としてみると海外勢の商品と日本の商品で大きな差がないものでも、多くは海外勢に押されているのが事実です。なぜこのようなことが起きるのでしょうか?結論から申し上げると、海外製品のほうがビジネスのエコシステムがきちんと機能しているからです。

今回はこの謎を解き明かす「エコシステム」について考えてみましょう。

 

#1 自社の新商品・サービスは他の誰に支えられているか?

「エコシステム」といきなり言われてもなんのことかわからないですよね。直訳すると、「生態系」などになります。生態系というと皆さんどのようなものをイメージしますか?動物と植物が食物連鎖の中で共存しているようなイメージをざっくりと浮かべていただければよいかと思います。ビジネスの世界のエコシステムも同じようなものだとお考えください。複数の企業が競争・協力しあって顧客に価値を提供している世界をエコシステムと呼ぶことにしましょう。エコシステムには大きく分けて2つの切り口があります。一つ目が、自社商品を開発する際に必要な他社の協力です。

新商品を作り出すとき、多くの場合は自社だけでは不可能で、原材料の提供者などの協力があって初めて可能になることと思います。そして、提供者から提供される原材料が商品の肝だったりすると、自社商品開発の成功自体が提供者に大きく依存することになります。ドラマ「下町ロケット」で、帝国重工の開発するロケットのバルブが佃製作所のバルブシステムに大きく依存していたように。このように、自社商品開発の成功は提供事業者の協力無くしてはなし得なくなってきているのです。

 

#2 顧客が自社商品・サービスを評価する前に誰がそれらを受け入れる必要があるか?

では、提供事業者の協力を得て顧客から見ても素晴らしい新商品・サービスを開発したらヒットするのかというと、そうではありません。先にも申し上げたとおり、顧客から見たらどれも素晴らしい商品ですが、売れるものと売れないものの差がついているのです。その差をつけるものは何でしょうか?

自社商品が出荷されて顧客に届くまでにはさまざまな経路を通ります。工場直送の場合もあれば、量販店や小売店・専門店で販売される場合もあるでしょう。この部分、つまり販売パートナーが自社の商品を「売りたいと思うか」で大きく差がついているのです。

電子書籍の具体例で説明をしましょう。今や電子書籍の代名詞ともなったKindle。今から2,3年前にはKindleに対抗する日本メーカーの多くの電子書籍端末が発売されました。しかしすべてヒットしませんでした。一体何が違ったのでしょうか?カンタンに説明すると、日本の電子書籍端末は、あくまで「端末」でしかなく、揃えれられている書籍のラインナップも少ないものでした。一方、Kindleは電子書籍端末に加え、書籍のフォーマットやマーケットプレイスなど、本を手にとって読むまでに必要な流れをすべて提供しました。なぜこのようなことができたかというと、電子書籍が売れると困る出版社を巻き込んだのです。具体的には、AmazonはKindleの書籍が売れると、販売手数料として書籍の売価の50%を出版社に支払ったのです。こうして出版社を味方につけることで膨大な数の書籍を電子書籍として提供する土台が出来上がり、Amazonお得意の検索・レコメンドシステムを使って販売ができるようになったのです。販売パートナーとなりうる出版社もKindleを後押しせざるを得なくなり、結果として他社の端末を大きく引き離し、現在のポジションを築くまでになっています。

 

このように、顧客が求めているものを提供するのはもはや当然であり、その先にある製造・販売パートナーと良好な関係を築いて売れる仕組みをいち早く作り出すことがヒット商品を生み出す秘訣と言えるでしょう。

ウランバも、SalesForceという巨大なエコシステムを持った仕組みを活用しています。ぜひお試しください。.

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執筆者:取材の学校 ライター 中小企業診断士 堀江 賢一

1977年生まれ。福岡県育ち。九州大学大学院理学府修了。中小企業診断士、ファイナンシャルプランナー(AFP)。

大手電機メーカーにてグローバルSCMプロジェクトやインターネットコンテンツ配信システムの販売、事業部改革プロジェクトなどに携わる。システム開発、販売、組織改革と、企業組織活動のあらゆる面を経験。その後コンサルティング企業を経て、現在はインターネット企業で、クラウドの事業戦略やマーケティング戦略の立案と実行に尽力している。戦略と実行計画の立案、プロジェクト推進が得意。

趣味はアカペラとテニス。友人と5人でアカペラユニットを組んでおり、結婚式などで歌を披露している。全日本テニスランキング保持者。