音楽をインターネット上からダウンロードして持ち歩けるiPodに電話機能をつけたApple社のiPhone。毎日の掃除の手間を人間の手から解き放ったiRobot社のルンバ、そして「吸引力が変わらない」をコンセプトにさまざまな商品を生み出しているdyson。
ここ数年だけでもかなりの数の「あっと驚く商品」が、世の中にはたくさん出てきています。SNSなどのサービスによって商品やサービスの情報が世の中に浸透する速度はかつてないほど上がっています。それに伴い、新しい商品を作って爆発的に売れても、3ヶ月後には世の中から忘れ去られてしまうような事態が発生しています。
そのような中でロングヒットを飛ばしているこれらの製品は、どのように企画・開発されているのでしょうか?

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従来型商品開発の限界

商品開発と聞くと、みなさんはどのようなものを想像されるでしょうか?企画会議のようなものが開かれて、みんなでアイデアを出し合う、、というとイメージが湧きやすいかもしれませんね。従来型の商品開発では、最初に企画段階があってそこで商品のコンセプト(どんな人に対して、どんなものを売るのか)を立てます。コンセプトが出来上がったら次はマーケットリサーチです。書籍をあさったり、時には調査会社に頼んだり、さらに実際にターゲットになりそうな顧客層に対してインタビューをしたりして、コンセプトで立てた仮説を検証・修正して詰めていきます。さらに、競合商品の分析もあわせて行い、自社の商品と他社商品とでどのように差をつけるか(差別化といいます)を検討します。
差別化の方法が固まったら、次は多数の他社商品の中での自社商品の立ち位置(ポジショニング)を決めます。ここでようやく商品のコンセプトがかっちりと決まるのです。そして試作品の制作に入ります。これと並行して、営業側では販売戦略の検討が始まるわけです。

いかがでしょう?ものすごく長く感じませんでしたか?そうなんです。従来型の商品開発はとても時間をかけて行っていたんです。なぜでしょう?それは、かつてはモノを作れば売れる時代だったからです。商品を世に出すのに時間をかけても消費者が待っていてくれていたんですね。
しかし冒頭にも述べたように、現在は作っても売れない時代、売れてもすぐに売れなくなってしまう時代です。従来型の商品開発では競争を勝ち抜けなくなっているのです。では、新しい商品開発の手法はどのようなものなのでしょうか?

問題定義して、すぐ作って、検証しての繰り返しから作られる

デザイン思考という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。デザイン思考が注目を集め出したのは2004年ごろといわれ、2005年にスタンフォード大学にd.schoolが創設され、Business Week誌が“design thinking”と題した特集号を発行したことで一気に知られるようになりました。そして2008年、ハーバードビジネスレビューにIDEO(アイディオ)のCEOであるティム・ブラウン(Tim Brown)が「IDEOデザイン・シンキング」を発表したのを契機に、ビジネス領域での関心が高まっていったのです。ヒット商品をどんどん生み出す企業ではこの「デザイン思考」をもとにした商品開発手法を取っています。

具体的なプロセスは、共感(Empathize)→ 問題定義(Define)→ アイデア創出(Ideate)→ プロトタイピング(Prototyping)→ 検証(Test)の5つです。といってもピンときませんよね。

カンタンに申し上げるならば、
① お客様に共感し
② お客様の感じている問題意識を言葉にし
③ 問題を解決するアイデアを考え
④ 試作品をたくさん作り
⑤ テストを繰り返す
という感じでしょうか。

そしてこの①~⑤を何回も回すのです。特に、試作品をたくさん作る部分が重要で、何度も試行錯誤を繰り返して試作品を作り、お客様の真の問題解決につながるものを作り上げていくのです。
いかがでしょう?従来型の商品開発と比べて、「ものが出来上がる」までが格段に早いことがお分かりいただけるかと思います。この「とにかく作って修正を繰り返す」ことこそが、情報化が進んだ世の中に新しい商品を「迅速に」提供するための重要なポイントになるのです。

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執筆者:取材の学校 ライター 中小企業診断士 堀江 賢一

1977年生まれ。福岡県育ち。九州大学大学院理学府修了。中小企業診断士、ファイナンシャルプランナー(AFP)。

大手電機メーカーにてグローバルSCMプロジェクトやインターネットコンテンツ配信システムの販売、事業部改革プロジェクトなどに携わる。システム開発、販売、組織改革と、企業組織活動のあらゆる面を経験。その後コンサルティング企業を経て、現在はインターネット企業で、クラウドの事業戦略やマーケティング戦略の立案と実行に尽力している。戦略と実行計画の立案、プロジェクト推進が得意。

趣味はアカペラとテニス。友人と5人でアカペラユニットを組んでおり、結婚式などで歌を披露している。全日本テニスランキング保持者。